世界のクラブハウスコミュニティの合意の上で承諾されたクラブハウス国際基準は、リハビリテーション(全人間的復権)のクラブハウスモデルを定義します。これらの基準が表している基本理念は、精神障害を抱える方々の社会的・経済的・職業的・教育上の目標達成を実現させるためのクラブハウスコミュニティの支援の核心を表わしています。基準はメンバーにとっての人権宣言でもあり、スタッフ、理事会、管理者にとっての倫理規定でもあります。
基準は、クラブハウスがそのメンバーに敬意を払い、機会を提供する場所であることを強く求めています。基準は クラブハウスインターナショナル（Clubhouse International：以下、CI）がクラブハウスを認定する過程を通して、クラブハウスの質を評価する根拠を与えるものです。
2年ごとに世界のクラブハウスコミュニティは、これらの基準を再検討し、必要に応じて修正します。その過程はCIの基準検討委員会が調整します。同委員会はCIが認定した世界各地のクラブハウスのメンバーとスタッフから構成されています。
国際基準（2020年版）
メンバーの資格（MEMBERSHIP）
- クラブハウスへの入退会は個人の自発的な意思によるものであり、在籍期間の期限はない。
- 入会の決定権はクラブハウスにある。入会の資格は精神疾患の経験があるという事実だけである。ただし、現在、著しくクラブハウスコミュニティの安全を脅かす行為のある人は例外とする。
- メンバーはクラブハウスを利用する方法と共に働くスタッフを選ぶ権利がある。メンバーの無理な参加を意図する同意事項、契約、予定表、規則は設けない。
- すべてのメンバーは平等にクラブハウスの提供するすべての機会を得る権利があり、診断名や障害のレベルによって区別されることはない。
- メンバーは自らの選択によりクラブハウスでの参加活動記録を記録することができる。この場合、その記録にはメンバーとスタッフ双方が署名する。
- メンバーは活動休止期間の長短にかかわらず、クラブハウスにいつでも、再び参加できる権利がある。ただし、クラブハウスに対して、現在、著しい脅威となる場合は、この限りではない。
- クラブハウスは欠席が続いていたり、地域社会から孤立したり、入院しているメンバーに対して効果的なリーチアウト（訪問支援）を提供する。
メンバーとスタッフの関係（RELATIONSHIPS）
- クラブハウスのすべてのミーティングはメンバーとスタッフの双方に開かれている。プログラムの決定やメンバーに関する事柄を議論するメンバーのみの、あるいはスタッフのみの正式なミーティングは行わない。
- クラブハウスのスタッフの人数は登録したメンバーの数に見合ったものでなければならない。 しかし、メンバーの参加なしで運営責任を果たせる数になってはならない。
- クラブハウスのスタッフは多方面の総合的な役割を果たす。すべてのスタッフは就労、住居、夜間と週末、祝祭日、およびユニット活動の責任を分担する。クラブハウスのスタッフはメンバー・スタッフ間の関係を阻害するような仕事には時間を割かない。
- クラブハウスを運営していく責任はメンバーとスタッフにあり、最終的な責任はクラブハウスの施設長が負う。この責任の中核をなすものは、メンバーとスタッフ双方がクラブハウスの運営のあらゆる面に責任ある関わり方をするというところにある。
活動場所（SPACE）
- クラブハウスは独自性をもち、固有の名称、住所、電話番号などをもつ。
- クラブハウスはクラブハウスだけの物理的な場所を持つ。それはいかなる精神保健施設からも独立しており、他のプログラムと完全に切り離されていなければならない。クラブハウスは仕事で構成される日課が円滑にできるように、また魅力的で、充実した規模があり、敬意と尊厳の雰囲気を感じられるように整備される。
- クラブハウスのすべての場所はメンバーもスタッフも自由に出入りすることができる。スタッフ専用またはメンバー専用の場所を設けない。
仕事で構成される日課（WORK-ORDERED DAY）
- 仕事で構成される日課では、メンバーとスタッフが一緒に対等な関係でクラブハウスを運営する仕事に携わる。クラブハウスのすべての活動はメンバーの強み、才能、可能性に焦点をおく。 したがって仕事で構成される日課のプログラムには、薬物療法、デイケア、また、いかなる治療プログラムも含めない。
- クラブハウスで行われる仕事は、クラブハウスの運営とクラブハウスの発展を目的とするものである。クラブハウス外の個人や機関から請け負う仕事は、有給・無給にかかわらず、クラブハウスで行う仕事としては受け入れない。クラブハウスのどのような仕事をしても、メンバーに報酬が支払われることはなく、いかなる報酬支払い制度も設けない。
- クラブハウスは少なくとも週に5日は開所する。仕事で構成される日課は一般的な労働時間と同等のものである。
- クラブハウスは１つ以上の仕事ユニットを構成する。各ユニットには意味のある仕事があり、 それらを維持するのに充分なスタッフとメンバーがいる。これは仕事で構成される日課が充実し、有意義で持続可能であることを保証するためである。各ユニットミーティングは、仕事で構成される日課を組成・計画する場であると同時に、人間関係を育てるために行われる。
- クラブハウスの仕事はすべてメンバーたちが自尊心、人生の目標、自信を取り戻すことを目的として設計されている。その仕事は就職するための特定の訓練を意図していない。
- メンバーはクラブハウスの中のすべての仕事に参加する機会を与えられる。それらの仕事は運営、調査、新メンバーの受け入れ・オリエンテーション、訪問支援、スタッフの採用・研修・評価、広報活動、権利擁護、クラブハウスの有効性を評価することを含む。
就労（EMPLOYMENT）
- クラブハウスはメンバーが過渡的就労、援助付き就労、一般就労を通じて、賃金を得るように支援する。したがって、クラブハウスはクラブハウス内の仕事、他のクラブハウスの仕事、また保護的作業所などの仕事を提供しない。
過渡的就労（Transitional Employment）
- クラブハウスは独自の過渡的就労プログラムがある。過渡的就労プログラムでは、メンバーであることの権利として、働くための仕事の機会を提供する。クラブハウスの過渡的就労プログラムの明確な特徴として、メンバーが欠勤している間は他のメンバー、スタッフがそのすべての仕事をやりとげることをクラブハウスが保証することである。さらに、過渡的就労プログラムは次の基本的な基準を満たすものとする。
- 本人の働きたいという希望が、仕事の機会を得るための、ただ一つの一番大切な条件である。
- 前の仕事での成功の程度に関係なく、メンバーは仕事への機会を継続的に利用することができる。
- メンバーは雇用主の職場で働く。
- メンバーは少なくとも最低賃金以上の一般就労と同等の給料を雇用主から直接受け取る。
- 過渡的就労は幅広い分野の仕事の機会から提供する。
- 過渡的就労で提供する仕事はパートタイムで期限があり、一般的に週に12～20時間で、継続期間は6～9ヶ月間である。
- 過渡的就労のメンバーを選び、訓練するのはクラブハウスの責任であり、雇用主の責任ではない。
- クラブハウスのメンバーとスタッフは、メンバーの社会保障と関連したすべての機関に過渡的就労についての報告書等を作成する。
- 過渡的就労の仕事はクラブハウスのスタッフとメンバーが運営し、過渡的就労の専門家が運営するわけではない。
- クラブハウスの中に過渡的就労の勤め口を設けてはならない。過渡的就労に協力してくれる職場は、クラブハウス外にあり、上記の基準をすべて満たすものでなければならない。
援助付き就労と一般就労（Supported and Independent Employment）
- クラブハウスはメンバーが就労を確保・維持し、より良い就労に就けるように援助するための独自の援助付き就労および一般就労プログラムを提供する。クラブハウスの援助付き就労を定義する一つの明確な特徴として、クラブハウスは働くメンバーと雇用主との関係性をサポートする。メンバーとスタッフがパートナーシップを結び、望ましい支援のあり方、頻度、場所を決める。
- 一般就労しているメンバーは、週末および夜間のプログラムへの参加を含み、引き続きクラブハウスのすべての支援と機会を利用できる。
教育（EDUCATION）
- クラブハウスはメンバーが自分たちの職業的また教育的目標を達成できるように、地域に存在する成人教育の機会利用を支援する。クラブハウス内で教育プログラムを提供する場合、メンバーの知識や技術を積極的に活用する。
クラブハウスの機能（FUNCTIONS OF THE HOUSE）
- クラブハウスの立地は、手近な交通手段が確実に利用でき、プログラム参加の行き帰りと、過渡的就労の職場への通勤の両方に便利であること。公共の交通機関の利用が難しい場合には、クラブハウスは必ず代わりとなる交通手段を用意または調整する。
- クラブハウスの地域生活支援サービスはメンバーとスタッフが行う。地域生活支援はクラブハウスの仕事ユニットの中心となる活動である。その中には福祉の受給権取得、住居の確保、権利擁護支援、健康なライフスタイルの展開、また地域内の良質な医療、心理療法、薬物療法、薬物乱用治療サービスなどの利用についての支援も含まれる。
- クラブハウスはメンバーが健康習慣（健康的なライフスタイル）を身につけ、維持することを目的とする活動や機会、支援を提供する。
- クラブハウスはすべてのメンバーのために自立生活の機会を含め、安全かつ適切で、手頃な住宅の選択肢を確保するように取り組む。クラブハウスはこれらの基準に沿った住居機会が得られるような手段を持つ。もし、そのような手段がない場合はクラブハウス独自の住居プログラムを開発する。クラブハウスが提供する住居プログラムは以下の基準を満たすものとする。
- メンバーとスタッフが一緒になって、そのプログラムを運営する。
- 入居はメンバーの意思による。
- メンバーがその住居の場所と一緒に暮らす人を選ぶ。
- 住居プログラムの方針と手続きは、クラブハウス文化と一致する方向で開発しなければならない。
- クラブハウスが提供する援助の水準は、メンバーのニーズの変化に応じて増減する。
- メンバーとスタッフは、メンバーが自分の住居を維持できるように、特に入院期間中には積極的にリ ーチアウト（訪問支援）する。
- クラブハウスは、CI の認証を含む、クラブハウスの有効性の調査するための客観的な評価を定期的に行う。
- クラブハウスの施設長、メンバー、スタッフおよびその他クラブハウス関係者で必要がある場合は、クラブハウスモデルについての 2 週間研修もしくは 3 週間研修プログラムに参加する（CI に認定された研修センターにて）。
- クラブハウスは夜間と週末にレクリエーションと社交プログラムを行う。祝祭日はその当日にクラブハウスでも祝う。
クラブハウスの財政、管理方式、経営（FUNDING, GOVERNANCE AND ADMINISTRATION）
- クラブハウスは独立した理事会を設ける。理事会が資金を提供する機関と深く結びついている場合は、それとは別の運営委員会を設ける。理事会・諮問委員会（運営委員会）を構成する人はクラブハウスへの財政支援、法律上の問題への支援、法律制定への支援、就労・雇用の開発、当事者・地域生活支援・権利擁護支援をそれぞれ提供する地位にあるものとする。
- クラブハウスは独自の予算を組み、運営する。会計年度に先立ち、理事会あるいは諮問委員会（運営委員会）により承認を受け、会計年度中に定期的に監査を受ける。
- スタッフの給与は精神保健分野における同等の職務に準じたものとする。
- クラブハウスは適切な精神保健当局の支援を受け、すべての必要な免許・認可を受ける。クラブハウスは、より広いコミュニティにおいて、その効果を発揮するために必要な人々や組織と協力する。
- クラブハウスは開かれた討論の場を有し、メンバーとスタッフが積極的に意思決定に関われる過程を有する。決定は全員一致を原則として、その範囲は、運営組織、基本方針、将来計画の方向性、クラブハウスの発展計画などを含む。