クラブハウスモデルの歴史
1944年:自助グループの結成
クラブハウスモデルの原点はニューヨークにある「ファウンテンハウス(Fountain House)」ですが、その母体となったのは「WANAクラブ(We Are Not Alone)」という当事者で結成されたグループです。WANAクラブはニューヨークの州立病院で知り合った数名の当事者が「退院したにもかかわらず“元患者”という扱いを受けるのではなく、自分たちも社会の中で何らかの意義ある生活を送りたい」という思いから結成されました。当時、WANAクラブには独自の場所がなったため、YMCAの会議室、街のカフェテリア、公共図書館の階段に定期的に集まり、ミーティングを重ねました。WANAクラブは、自分たちの思いや存在を載せた会報を作成し、それを持参して仲間の病院を訪問するなどの活動を行っていました。
1948年:活動拠点の確保
WANAクラブは、地道な活動を通して賛同者や協力者を増やし、1948年にマンハッタンの西側47番街に石造りのビルを購入し、自分たちの独立した場所を確保しました。このビルの中庭に噴水(Fountain)があったことから「ファウンテンハウス」と名づけられました。
1955年:ジョン・ビアードの登場
創設当初の「ファウンテンハウス」は、メンバー自身によって運営されていましたが、1955年にソーシャルワーカーのジョン・ビアード(John Beard)を責任者に迎えたことにより、目指すべき方向性が整理されました。ジョン・ビアードは、「メンバーとスタッフでクラブハウスを運営する」という視点を入れ込み、すべての場面で仲間(ピア:Peer)を意識し、そしてパートナー(Partner)として協働する“横並びの関係(Side by Side)”を重要視しました。また、メンバーには生産的な仕事に携わる能力があるという核心から、実際の職場で働く過渡的就労(Transitional Employment)というクラブハウス独自の就労支援システムの基礎を作りました。
1977年:クラブハウスの拡大
1976年までクラブハウスという形態で活動していたのは「ファウンテンハウス」だけでした。「ファウンテンハウス」は、1977年に「アメリカ国立精神衛生研究所(National Institute of Mental Health:NIMH)」より5ヵ年の研究助成を受け、クラブハウスに関する3週間研修(講義、ディスカッション、実習)を企画しました。その結果、米国各地の関係者がこの研修を受け、5年間で全米に100以上のクラブハウスが誕生し、急速的にその数を増やしました。
1981年:クラブハウス国際会議の開催
ファウンテンハウスのスタッフであったルディヤード・プロプスト(Rudyard Propst)は、あらゆる地域にいる精神障害者が利用することができる「ファウンテンハウス」のようなコミュニティを各地に作ることを大きな目標としました。その一歩として、1981年に第1回目の「クラブハウス国際会議(2年に一度のイベント)」を開催し、クラブハウス間の交流、連携、議論する場を設けました。
1987年:国際基準の作成&アジアで最初のクラブハウス誕生
広がりつつあるクラブハウスコミュニティーにおいて、クラブハウスモデルの哲学や理念をしっかりと共有するために、1987年に「国際基準(International Standards)」がまとめられました。また、同じ年にアジアで最初のクラブハウスである「テファ・ファウンテンハウス」が韓国に設立されました。
1994年:国際クラブハウス開発センターの設置
クラブハウスは全米にとどまらず、ヨーロッパなどにも普及したことにより、より密な国際的なネットワークを構築する必要性が高まりました。そこで、1994年に「クラブハウス国際開発センター(International Center for Clubhouse Development:ICCD)、現在のCI」が「ファウンテンハウス」に隣接するかたちで設立されました。ICCDは、国際会議の企画、3週間研修の充実、モデルの普及、研究、そしてクラブハウスを目指しているグループへの支援などを役割にした組織です。
クラブハウスの国際的な評価
2010年、アメリカ連邦保健省 薬物依存精神保健サービス部(SAMHSA)が発行する「Mental Health United States2010」にクラブハウスモデルのことが掲載されました。
2014年、「ファウンテンハウス(NY)」と「クラブハウス インターナショナル」がコンラッド・ヒルトン人道賞を受賞し、これまでのメンタルヘルスに関する活動が評価されました。
2021年、WHOが発行する「Guidance on community mental health services」の中に、心理社会的リハビリテーションモデルとしてクラブハウスのことが掲載されました。
クラブハウスの理念
「WANAクラブ」から始まったクラブハウスモデルの原点は、自分たちの「(居)場所」「空間」を求めたことです。それは、従来の医療的な枠にはめられた保護的、ある一定の時期を向かえると通過しなければならない場所ではなく、『自分たちのものといえる場所』『真の意味で所属することができる場所』『自分たちが一人の人間として社会に貢献でき、必要とされる存在であることを感じることができる場所』『強制されることなく、自らの意思が尊重される場所』が基盤となっています。つまり、クラブハウスとは、自らの意思による参加と仲間に支えられた場所(コミュニティ)なのです。
クラブハウスというコミュニティの中では、個性ある一人の人間としてお互いを認め合い、必要とされる存在になります。また、自分たちのクラブハウスを成り立たせ、運営していくために必要となる多様な仕事をメンバーとスタッフで協働することにより、意味のある人間関係が構築されていきます。この意味のある人間関係とは、自然に時間の経過によって形成されていくものではなく、仲間と共に行う仕事を媒体として形成される関係であり、人から求められ、必要とされ、期待される関係の中から生まれていくのです。
クラブハウスは、所属しているすべての人の力によって運営と活動が行われているため、当事者のことを「障害者」「患者」として捉えるのではなく、地域で生活する一人の生活者、共に働く仲間(パートナー)として認識しているため、「メンバー」と呼んでいます。
クラブハウスが大切にする4つの権利
クラブハウスは医療的な枠組みから脱却し、当たり前の生活、普通の生活というものを活動の基盤としています。そのため、「○○してはならない」ではなく、「○○することができる」という視点を大切にしています。その視点を集約したものが、全てのメンバーに保障された4つに権利です。
- クラブハウスは自由に来ることができる場所である(自分の好きな時に来ることができ、そして歓迎される)。
- クラブハウスは意味のある仕事がある(単に暇つぶしのための仕事ではなく、クラブハウスを運営していくためには必要不可欠な仕事があり、実際の生活に則した必要な仕事を行う)。
- クラブハウスは意味のある人間関係がある(クラブハウスのメンバー、スタッフはお互いに尊重し合い、支え、頼りあう関係)。
- クラブハウスはいつでも帰ってくることができる場所である(社会での生活に行き詰ったときなど、いつでも温かく、仲間に迎えられる場所。通過施設ではなく、メンバーとして一生所属することができる)。
クラブハウス研修(トレーニング)
「クラブハウス インターナショナル(CI)」は、世界12カ所(米国5ヶ所、カナダ1ヶ所、英国1ヶ所、オーストラリア1ヶ所、ノルウェー1ヶ所、フィンランド1ヶ所、韓国1ヶ所、香港1ヶ所)にあるトレーニングセンタークラブハウスと共に、クラブハウスモデルの哲学や理念だけでなく、実際の活動を通してより深く理解するための研修(トレーニング)を行っています。研修の種類はいくつかありますが、ここでは包括的なクラブハウス研修として位置づけられている『3週間研修』を紹介します。
『3週間研修』は、新たにクラブハウスを始めたいと考えているグループや、すでに研修を受講しているが継続的にクラブハウスモデルを展開していきたいと考えているクラブハウスを対象にしています。研修は、メンバー1名、スタッフ1名、管理者(施設長や理事などを含む)1名の計3名で受講します。研修内容は、クラブハウスモデルの視点や考え方を理解するために国際基準に関する講義やディスカッション、実際のクラブハウス活動への参加、過渡的就労先への訪問などを行い、最終的に「アクションプラン(研修後の目標設定、実際に動くべき内容を整理したもの)」を作成します。研修終了後は、トレーニングセンターのクラブハウスと定期的に連絡を取り合い、アクションプランの進捗状況を確認するなど、継続的なフォローアップを受けます。
『3週間研修』を受講することで、クラブハウスコミュニティーに加わる第一歩となります。
クラブハウス認証
国際基準に則ったクラブハウス運営を行っているか、また、クラブハウスとしての質を維持しているかを確認するために、世界のクラブハウスは独自の評価基準に基づいた『認証(Accreditation)』を定期的に受審しています。国際基準を順守している状況や度合いに応じて、1年認証または3年認証が授与されます。
2021年8月1日現在、日本クラブハウス連合に加盟している3ヶ所のクラブハウスは、3年認証を授与されたクラブハウスとなっています。